日常と調和する、“普段使いのコーヒー”を。
福島県郡山市内にある閑静な住宅街に、
ひっそりと佇むカフェがある。その名は『OBROS COFFEE』。
ある兄弟の想いが詰まったこの場所で紡ぎ出される、
コーヒーを巡る物語を紐解いてみよう。

『OBROS COFFEE』がオープンしたのは2016年のこと。郡山市役所にほど近い閑静な住宅街の一角にある古い建物の壁を取り払い、その中にすっぽりと収まるようにつくられたビニールハウスを思わせるガラス張りのカフェ。この不思議な場所にはいったいどんなストーリーがあるのだろうか。バリスタを勤める荻野夢紘(ゆめひろ)さんにお話をうかがった。

 

ひとりの高校生と、コーヒーが出会ったとき。

「すべてのはじまりは高校三年生のとき。実家の近くに個人店のカフェができて、そこでラテアートを目にしたところからです。その体験がきっかけでコーヒーに興味を持つようになり、大手コーヒーチェーンでアルバイトをはじめたんです。」そう語ってくれた荻野さんの印象を一言でいえば“自然体”。力みのないやわらかな物腰が印象的だった。

 

「その後、弟も別のコーヒーチェーンで働くようになり、“いつかいっしょに自分たちの店をつくろう”と話すようになりました。僕は高校を卒業してそのままそのコーヒーチェーンに就職して23歳までの5年間はそこで経験を積み、地元の家具屋さんで1年ほど働いた後、自分たちの店をつくるための知識を身につけようと関東のコーヒーマシンメンテナンス会社に就職。エスプレッソマシーンなどの修理の仕事をはじめました。」

 

“兄弟で店をつくる”という目標に向かって東京に出た荻野さんは、コーヒーマシンメンテナンス会社の仕事と並行してコーヒーの勉強も本格的にスタートさせた。
「東京スカイツリーの近くにある『アンリミテッド株式会社』が主催しているバリスタトレーニングラボ東京というプロのバリスタを育成するトレーニング施設に通い、週末はトレーニング。平日はコーヒーマシンの修理の仕事を続けました。」
こうして『OBROS COFFEE』のストーリーは幕を開けた。

 

『OBROS COFFEE』を立ち上げた荻野兄弟。左は現在、オリジナルの豆をつくるべく
奮闘中の弟・稚季(わかき)さん。右はバリスタを勤める兄・夢紘(ゆめひろ)さん。

 

兄弟で店をつくる。その想いをかたちにしたカフェ。

18歳でコーヒーの世界に入り、紆余曲折を経て約7年……荻野さんは若干26歳で『OBROS COFFEE』をオープンさせた。まずは店のコンセプトについて語っていただいた。

 

「店の名前は、荻野兄弟……つまり“Ogino Bros”を縮めた造語です。僕と弟で、それぞれが就職したコーヒーチェーンで学んだオペレーションを持ち寄って店づくりを進めました。最初の1年間はふたりでバリスタをしていましたが、弟は今、郡山で焙煎を研究しながら実験的にコーヒーを提供するコーヒースタンドをやっています。近い将来は弟がロースターとして焙煎した豆を、僕がバリスタとして提供したいと思っています。」

 

なるほど、お店の名前もまた、“兄弟で店をつくる”という想いの中で、ごく自然な流れで生まれたものだったようだ。しかし、同時にそれは、荻野さんたちでなければ生み出せない、個性豊かなコンセプトだともいえるだろう。

 

バリスタとして店に立つ荻野夢紘さん。店内は兄弟ふたりで仕事をするのにちょうどいいサイズに設計されており、
カウンターのお客様にもしっかり目が行き届くオープンなつくりになっている。

日常の中に心地よく調和する空間が生まれるまで。

続いて市内の中心地から少し外れたこの住宅街を創業の場所に選んだ理由をたずねてみた。
「そもそも、郡山市に飲食店可の物件が少なかったことが大きかったんです。それに、大通りに面した場所にはお店を出したくなかったんですよね。このあたりの飲食店って、ほとんどの場合、店の前に駐車場があって、お客様は車を見ながらコーヒーを飲むことになってしまう。それはなんだかちがうな……と、感じていて。あとは公園が近くにある場所がいいなって。そこにこだわって約1年かけて探して出会ったのがこの場所なんです。」と、この場所に決めたいきさつを語ってくれた荻野さん。聞けば、ここは、かつて人々の暮らしの一部として親しまれていた郵便局だったという。

 

「実は大家さんがその郵便局で局長さんをやっていた方なんですよ。すぐ隣に住んでいます。」と、荻野さん。訪れるお客様も、散歩のついでや、仕事の途中に立ち寄る人が多く、『OBROS COFFEE』が、この街の日常に根ざした、身近な存在であることがうかがえる。

 

さらにビニールハウスを思わせるユニークな空間について探っていこう。
「店の空間デザインは、コーヒーチェーンを辞めて、コーヒーマシンメンテナンス会社に就職するまでの間に働いていた地元の家具屋さんで知り合った『株式会社Life style工房』の安齋好太郎さんにお願いしました。『株式会社Life style工房』は建築雑誌の表紙を飾るような有名な建築事務所で、物件を探す段階から僕たちがやりたいことを応援してくれて、投資のようなかたちで店づくりをサポートしてくれました。僕たちからお願いしたのは、“お客様との距離感を近くして、サクッと入れて、サクッと出られるようなラフな使い方ができるお店にしたい”ということだけでした。」

 

木の質感を大切にしているという建築デザイナーのこだわりが随所に見られるディティール。
窓の木製フレームは専用設計。また、元々あった古い建物の梁を敢えてそのまま残して見せているのもユニークだ。

 

 

そんなエピソードから生まれた空間は、ぱっと見たときの個性は強いはずなのに、木を使ったやさしい質感が、周囲の閑静な景観にも調和している。また、小さな店構えに対して6つも入り口が設けられており、“入りやすさ”が意識されていることがよくわかる。訪れる人たちは、まずオーダーカウンターで注文をして、イートインなら好きな入り口から店内へと入り、カウンタースタイルのスタンドで、思い思いの時間を過ごすことができる。さらに東北の厳しい寒さの中でも快適に過ごせるよう、カウンターの側面にはヒーターを配置するなど、細やかな気配りが施されている。

 

また、建築を手がけた安齋さんたちが木を大切に考えていることもあり、年月を経た天井の梁などがそのまま残され、空間のアクセントになっている。住宅街という日常の場の中で、違和感なく心地よく調和する個性。それは、荻野さんの人柄や想いを、そのまま空間として表現したような場所に仕上げられている。

隠しごとのない仕事。隠しごとのない味わい。

兄弟で店をつくること。お客様との距離を近づけること。そんな想いの先で、荻野さんはどんな仕事をしていきたいと思っているのだろうか。『OBROS COFFEE』が目指す方向性についても聞いていこう。
「基本的にコーヒーが軸であることに変わりはありませんが、一貫してつくり手のわかるものを扱っていきたいと思っています。例えば、仕入れたパンも、誰がどこでどんな食材を使っているかを明記するようにしています。どれだけ“情報のオープン化”ができるかを大事にしていますね。この店のガラス張りの空間と同じように、僕のバリスタの仕事もオープンで隠しごとがまったくないように心がけています。」

 

その姿勢は、荻野さんが淹れるコーヒーの味わいにもあらわれている。コーヒー豆が持つ果実としての風味を、どこまでもクリーンに表現するその技術は、まさに、隠しごとのない仕事。隠しごとのない味わいだ。
「いつかは弟が焙煎したオリジナルの豆を使いたいという想いもありますが、今は、バリスタの勉強をした『Unlimited coffee roasters』の豆を仕入れて使っています。そこで修行をしたこともありますが、僕が大切にしている“甘さをどれだけ引き出せるか”という基準で選んだのがこの豆だったんです。浅煎りではなく中煎りなのに、甘さを十分に引き出せる点が面白いと感じています。」

 

他にも、東北エリアではあまり出回っていない豆を仕入れて楽しんでもらおうと、あれこれ工夫をしているという。
「僕らが目指しているのは、“普段使いできるコーヒー”なんです。できるだけ日常の中で無理なく楽しんでもらえる価格帯を意識しています。ただ、その“普段使い”を提供するための環境は、しっかりと整える。ドリッパーやエスプレッソマシーンなどの機材は世界基準で選ぶようにしています。」

 

現在は『Unlimited coffee roasters』から仕入れた豆をメインで使用している。
近い将来、弟さんが焙煎した豆で淹れたコーヒーを出すことが兄弟の目標になっているそうだ。

 

Kalitaだから、出せる味がある。

“普段使い”で楽しめるコーヒーを提供するために、世界水準の機器を選ぶ。そんな荻野さんがドリップコーヒーをつくる際に使用しているのがKalitaのウェーブドリッパーだ。荻野さんがKalitaを選んだ理由についてうかがってみた。
「子どもの頃から実家でKalitaの磁器のコーヒードリッパーを使っていたり、大手コーヒーチェーン店で働いていたこともあって、Kalita製品は身近な存在でした。でも、Kalitaのウェーブドリッパーとウェーブフィルターと出会ったのはごく最近、店をオープンさせる少し前の頃でした。はじめて使ってみたときに、ムラの少なさや抽出の再現性の高さを感じましたね。その後、店でワークショップをすることになったときには、誰でも簡単に淹れられて、家でも再現しやすい。つまりはお客様に提案しやすいという魅力も感じました。何よりも、僕が目指している味わいをしっかり引き出してくれることが大きいですね。」

 

「表現したい味わいを引き出せるから」と、ウェーブドリッパーを愛用している荻野さん。
再現性の高さにも着目し、ワークショップでも使用している。

 

コーヒーを飲む前のストーリーまで、楽しんでほしい。

最後に、読者に向けたメッセージをお願いした。
「思い返してみると、高校時代、コーヒーを意識するようになったきっかけの場所でもある実家の近くのカフェで出されたラテにウサギの絵が描かれていたんですよね。そのときはそもそもラテアートなんてものを知らなかったので、“コーヒーを注文したのに、どうして絵が描いてあるんだろう?”と思ったんです。でも、それが面白かった。飲む前から楽しませる所作みたいな部分というか、“コーヒーを飲む前のストーリー”って大切だと思うんです。だから、もしも、『OBROS COFFEE』でコーヒーを飲んでいただく機会があれば、抽出までのすべての工程と、この空間を同時に味わっていただきたいと思っています。目指しているのは僕らの店がみんなの日常になること。ここでちょっといい日常を楽しんでもらえたら理想的ですね。」

 

そう語ってくれた荻野さん。兄弟で歩んできた道、住宅街の中に佇む空間、隠しごとのない仕事と味わい……そのどれもが、どこまでも“自然体”。そんな肩の力が抜けた雰囲気と、“普段使いのコーヒー”を求めて、『OBROS COFFEE』には、今日も多くの人が集まり、ちょっといい時間、ちょうどいい時間を過ごしていることだろう。

Shop Information
OBROS COFFEE & Kalita
Store obroscoffee
営業時間
月-金 7:00-18:00
土・日・祝 9:00-18:00
住所
〒963-8015
福島県郡山市細沼町1-30
定休日
木曜日
HP
http://obroscoffee.com
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