“日本は資源の乏しい国”とよく言われる。しかし、国土の中で森林が占める割合は先進国の中でもトップクラス。ただ、近年、この豊かな森の資源が使われなくなりつつあるらしい。こうした状況をなんとかしようと、国内でも有数の森林資源を持つ岐阜県の企業が中心となって立ち上げたプロジェクトがある。それが“Neo Woods 根尾の広葉樹活用プロジェクト”だ。この試みの中で発見したのは、良質でありながら“使い勝手が悪い”という理由で製造ラインにすら乗らなかった広葉樹の木々が、素晴らしい素材となることだった。
岐阜県本巣市。ここは、東洋経済新報社が全国の都市を対象に毎年公開している“住みよさランキング”で常に上位にランクインしている*。今回のプロジェクトで使われる木は、その中心部にある根尾地域で生まれ、育っている。
今までは決められたサイズに満たなかったり、曲がっていたりする規格外の広葉樹は、質や種類に関係なく切り刻まれ、紙の原料や燃料として出荷されていた。ただ、それらの木々も、根尾の森で何年も育まれた大切な資源であることに変わりはない。職人が1本ずつ伐採した木に、燃料以外の活用方法を見出したい。そんな想いのもとに集まった地元企業3社が手を取り合い、循環型活用プロジェクト“Neo Woods 根尾の広葉樹活用プロジェクト”がスタートしたのである。
* 「東洋経済別冊 都市データパック 2016年7月号」より
「規格外の広葉樹の使い道については、常々考えていました。」と語るのは、このプロジェクトの中心的存在であるオークヴィレッジ株式会社の副社長、佐々木さんだ。「日本の中でも、根尾の森は木の種類も豊か。そんな立派な森の木なのに、“曲がっている”などを理由にパルプされてしまうなんて、どう考えても“もったいない”ですよね。」
その熱い想いに触発された人物が、社内にもうひとりいた。このプロジェクトの企画開発を担当する傍ら、北陸先端科学技術大学院大学にて知識科学に基づく"地域資源の価値創造プロセスモデル"を研究する森さんである。
「とにかく、木のよさを活かせるものを木でつくる。そこから人間の生活との接点を見つけて、その魅力を感じてもらうことによって、木とともに暮らす文化を再構築したい。元々、日本人ってそういう土壌を持っていたんですよね。そしていずれは木を植えて森を育てるようなアクションが生まれるといいなって思うんです。木は石油資源や鉱物とちがって、僕たちの意志で増やせる素材ですし、使い続ければ愛着も深まる。手入れ次第で半永久的に使えますからね。それは規格外品の木でも同じこと。こうした木ならではの魅力をつなぎ合わせると、面白いかたちが見えてくるんじゃないかと考えています。」
しかし、彼らの専門分野はあくまで木工。この想いをかたちにするには、根尾の森を知り尽くし、オークヴィレッジの考えに共感してくれる“仲間”の助けが必要だった。そこで出会ったのが、根尾で林業を営む“森の守り人”であった。
木を育て、上手に活用するためには、木を伐採だけでなく、木を運ぶため、森の整備していくことが欠かせない。そんな役割を担うのが、この地で林業を営む有限会社根尾開発。2代目である小澤さんは、代々、根尾の森を守ってきた家系の出身だ。
「私たちは根尾地域を中心に、3000haを超える社有林を持つ森林管理会社です。40年間にも渡り、この地域の森を育林し、維持管理し、木材を生産してきました。近年は、Neo Woodsにも関係している広葉樹育成にも取り組んでいます」と、小澤さん。
何代にも渡り使命を受け継ぐ“守り人”がいなければ、現在の豊かな根尾の森はない。そんなことを彼の後ろ姿から教わった気がする。
根尾の森で育った規格外の広葉樹。そのいびつな素材たちを製品化できるまでに製材・乾燥する“整え人”を担うのが、創業50年以上を超える製材会社、株式会社カネモクだ。
扱いやすい規格内の広葉樹とはちがい、規格外の木を使ったものづくりは当然容易ではない。その苦労を、カネモクのプロジェクトリーダーである森本さんにうかがった。「製品化するためには、どうしても少量で多種類の広葉樹を一度に材料化する必要がある。ただ、規格外のものはいびつな形状が多い分、どうしても乾燥に時間がかかってしまうんです」。
このプロジェクトへの参画を決めたのち、広葉樹の製材乾燥の専門家として、日々勉強と思いながら、無理難題を解決する方法を模索したという。「その努力が実を結び、時期や場所によって全く異なる規格外の広葉樹にも対応できるようになった。根尾の森を“宝の山”にするプロジェクトに関われていることは、私たちにとっても誇りですね」と、森本さんは語る。
さまざまなプロの手により整えられた広葉樹は、最後にオークヴィレッジへ辿り着く。しかし、オークヴィレッジの職人たちがこれらの木と出会うのは、これがはじめてではない。彼らは森へ出向き、伐採の現場に立ち会っていたからだ。
「長く使えるモノをつくるためには、木の特徴を見極めてさまざまな広葉樹を使い分ける必要がある」と話すのは、オークヴィレッジの西崎さん。「職人が森へ出向いて、木を見極めながら、木の使い道を決めていく。こんな手間のかかることをしているのは、日本でも私たちくらいなはず。この無謀とも思えるアイデアをかたちにできたのも、根尾の森を愛する人たちがいたからなんです。」
根尾開発、カネモク、オークヴィレッジ……3社の協業が生んだプロジェクトは、根尾の森以外にも大きな影響を与えていった。「このプロジェクトでは、第1次産業から第3次産業までをひとつのチーム内で完結できる仕組みをつくりました。いわゆる“6次産業”という取り組み。協業が難しい林業分野で “6次産業化認定”を受けている企業や企画がほとんどないのは、実現するためのハードルが高すぎるから」と、オークヴィレッジの佐々木さんは語る。
森さんも続く。「オークヴィレッジには、環境と共生するために創業当初から掲げている3つの理念があります。そのうちのひとつが“100年かかって育った木は100年使えるものに”するという考え方。それが例え規格外であっても、育った期間以上に長く使えるものをつくる。創業当初から掲げているこの精神が、プロジェクトを後押ししてくれたのは間違いないですね。」
またこのプロジェクトでは、プロダクトをつくり販売するだけではなく、根尾の森とのつながりをつくる試みも行われているそう。「“森を見学に行くツアー”や“森で育った木がどこで使われているか知るしくみ”など、森と木と人をつなげる活動も行っています。それらが巡り巡って、地域創生の足がかりになっているのであれば、この上ない幸せですね」と、佐々木さんは笑顔で話してくれた。
今回のコラボシリーズには、手挽きコーヒーミルやドリッパースタンド、アウトドアセットなどがラインナップされている。「使用した木は、根尾の森で育ったミズメやブナなどの広葉樹たち。きめ細やかな触り心地で、木本来のあたたかさが感じられるのが特徴です。オイル塗装を施してはいるんですが、色や匂いが染みて“コーヒー器具らしい”味わいが出るよう、あえてラフに仕上げています」と、森さん。
このプロダクトの魅力を、佐々木さんはこう語る。「今回はどんなシーンでもコーヒーを楽しんでもらえるよう、外で使ってもらえるセットも用意してみました。アウトドアやキャンプなどで、木製のコーヒー器具を使って淹れる……想像しただけでも気持ちがいいですよね。このシリーズを通じて、“Neo Woods”ブランドやプロジェクトを知ってもらうのも嬉しいんですが、木と自分の関係を見つめ直す、そんなきっかけづくりにもトライできたらと考えています。」
今回のコラボシリーズは、オークヴィレッジの本社に併設されているショールームだけでなく、東京・自由ヶ丘、大阪・阪急うめだ本店でも展示・販売される予定だ。お近くにお出かけの際はぜひ足を運んで、根尾の木とコーヒー器具の“ちょっといいストーリー”を体験していただきたい。